役員の「重任」について

「重任」という言葉は、会社法や商業登記法などの法令上の用語ではなく、登記実務上使われている文言であり、任期満了による「退任」と「就任」の2つの登記を1つにまとめて登記する場合に使われるものになります。

「重任」は法律が定める用語ではないため、明確な定義規定がありません。
そのため、関連する登記先例等から内容を特定する必要があります。

・(登記研究119号42項 質疑応答)「重任と就任との区別ですが、重任とは任期満了後直ちに改選の結果再選された場合のみを指し、数日あるいは数年を経過した後再選された場合は重任とはならない。」とされています。
また、この質疑応答の中で「重任と就任との区別という厳格な定義はありませんが上記意見のように解されています。」とあるように、重任に関しての厳格は定義は存在していないことが分かります。

・(登記研究333号 73項 質疑応答)「株式会社の取締役から定時株主総会の終結と同時に辞任する旨の申出があり、同定時株主総会で同一人が取締役に選任され即時に就任承諾をしている場合は、辞任による退任と同時に就任することになるので、任期満了による退任の場合と同様に、登記原因を重任とすることができるでしょうか」という質問に対し、「辞任及び就任とすべき」と回答しています。

・(登記研究453号 126項 質疑応答)「午前中の定時株主総会で再選され重任した取締役が、同日午後の取締役会で代表取締役として再選され就任した場合における代表取締役の変更登記の登記原因は重任としても差支えない。」とされています。

上記の登記研究等から「重任」か否かは、①同一人物が再度選任され就任承諾をしているか②退任事由が「任期満了」であること③任期満了退任と就任との間に時間差がないこと によって判断されることになります。

ただし、③の「任期満了退任と就任との間に時間差がないこと」については、重任取締役が代表取締役として同日の取締役会で再選された場合も含みます。この場合の時間差は、代表取締役の選定手続きとしてやむを得ないものであると考えられているからです。一方、取締役の場合は「任期満了退任と就任との間に時間差がないこと」の判断は、即時性が求められると考えられています。

取締役3名(A・B・C)の株式会社において、定時株主総会の終結と同時に取締役全員の任期が満了する場合。
この定時株主総会で上記3名の取締役が再度選任され、2名(A・B)は株主総会に出席し席上で就任承諾をしたが、残り1名(C)は株主総会を欠席していたため、株主総会の終結後(同日)に就任承諾をした。
この場合のCは「重任」といえるのでしょうか。

取締役A・Bは「任期満了退任と就任との間に時間差がない」ため「重任」で問題ありません。一方、取締役Cは任期満了退任と就任との間に時間差が生じています。

「重任」かどうかの判断基準となる「任期満了退任と就任との間に時間差がない」の時間差をどこまで厳格に判断するかによって結論が異なると思われます。僅かな時間差も認めない趣旨であれば取締役Cは「退任」と「就任」の登記をすることになり、数分または数時間程度の時間差は許容されるのであれば「重任」の登記をすることになります。

私個人の意見ですが、この程度の時間差の場合は「重任」として登記をしてよいのではないかと考えています。

参考書籍

「不動産・商業・法人 登記実務事例集」山中正登・渡邉敬治監修 日本加除出版株式会社
「論点解説 商業登記法コンメンタール」神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介編著 一般社団法人金融財政事情研究会
「商業・法人登記500問」神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介編著 株式会社テイハン

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