一人合同会社の社員が死亡した場合
合同会社の唯一の社員が死亡した場合、会社はどうなるのでしょうか。
結論は合同会社の定款の内容によって変わります。
会社法608条は、「持分会社は、その社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合における当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めることができる。」としています。
この承継に関する定款の定めがある場合とない場合で、どのように結論が変わるのか以下でまとめています。
持分の承継に関する定款の定めがある場合
死亡した社員の相続人が相続開始時に持分を承継し社員となります。
相続人は、死亡した社員の持分を承継して社員となるため、新たに出資をする必要はなく、資本金の額も変動しません。
また、相続人が社員になる場合、定款の社員に関する規定は変更されたものとみなされます。(会社法608条3項)
そのため、相続人を社員として会社を継続していくことができます。
持分の承継に関する定款の定めがない場合
社員の死亡は法定退社事由に該当します。(会社法607条)
持分の承継に関する定款の定めがない場合、相続人は死亡した社員の持分を承継することはできません。
また、一人合同会社の社員が死亡し持分が承継されない場合、社員が不在となるため合同会社は解散してしまいます。(会社法641条4号)
合同会社が解散した場合、会社を清算するために清算人を選任する必要があります。(会社法644条、646条)
この時、相続人は社員ではないため、清算人を選任する権限がありません。
清算人になることができるのは、①業務を執行する社員(②、③の者がいる場合を除く)②定款で定める者③社員(業務を執行する社員を定款で定めた場合にあってはその社員)の過半数の同意によって定める者 になります。
一人合同会社の場合、社員がいなくなるため①、③の者が清算人になることはありません。
そのため、定款に清算人に関する定めがない場合、相続人は利害関係人として清算人の選任を裁判所へ申立てしなければならなくなってしまいます。(会社法647条2項)
また、相続人が会社の継続を望んでいても相続人は社員ではないため、合同会社を継続することはできません。
ただし、相続人は「社員の退社に伴う持分の払戻し請求権」を承継するため、持分の払戻し請求をすることはできます。
なお、合同会社の清算手続き中に唯一の社員が死亡した場合は、持分の承継に関する定款の定めがないときであっても相続人は社員の持分を承継します。(会社法675条)
まとめ
合同会社は、不動産を所有し賃貸による収益を得る事業を行うなど、資産管理会社として利用されることも多くなっています。そのような場合に実態としては不動産賃貸業が継続しているにもかかわらず、合同会社が解散してしまうことは避けなければなりません。定款の規定を確認し、「持分の承継に関する規定」がない場合は、定款を変更して承継に関する規定を追加することをおすすめします。
参考書籍
・詳解合同会社の法務と税務 安部慶彦著 中央経済社
・「商業・法人登記500問」 (編著)神﨑満治郎 金子登志雄 鈴木龍介 株式会社テイハン
・「第4版 会社法定款事例集 定款の作成及び認証、定款変更の実務詳解」(著)田村洋三 /監修 土井万二・内藤卓・尾方宏行/編集代表 日本加除出版
・事例解説 合同会社の登記 泉水悟/著 日本加除出版