取締役が後見開始の審判を受けた場合
成年被後見人及び被保佐人は株式会社の取締役・監査役になることはできませんでした。
しかし、令和3年3月1日施行の改正会社法でこの欠格事由が削除され、取締役等に就任することができるようになりました。
では、現に在任している取締役が後見開始の審判を受けた場合はどうなるのでしょうか。
取締役の欠格事由
以下の者は取締役になることはできません。
1.法人(会社法第331条第1項第1号)
2.会社法その他の一定の法律の規定に違反し、刑に処せられ、その執行を終わりまたは執行を受けることがなくなった日から2年を経過していない者(同項3号)
3.上記以外の法令の規定に違反し、禁固以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでまたは執行を受けることがなくなるまでの者(ただし、刑の執行猶予中の者は除く)(同項4号)
成年被後見人、被保佐人が取締役としての欠格事由に該当することを定めた会社法第331条第1項第2号は令和3年3月1日施行の改正会社法により削除されました。
そのため、現在では成年被後見人、被保佐人であっても取締役等に就任することができます。
就任承諾の方法
成年被後見人が取締役に就任するには、その成年後見人が成年被後見人の同意を得た上で、成年被後見人に代わって就任の承諾をしなければなりません。(会社法第331条の2第1項)(後見監督人がいる場合は、後見監督人の同意も必要です。)
被保佐人が取締役に就任するには、保佐人の同意を得るか、民法第876条の4第1項の代理権を得た保佐人が被保佐人の同意を得た上で、就任の承諾をする必要があります。(同2項、3項)
なお、成年被後見人または被保佐人がした取締役の資格に基づく行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができません。(同4項)
在任中の取締役が後見開始の審判を受けた場合
株式会社と取締役の関係は委任に関する規定に従います(会社法第330条)
そして、取締役が後見開始の審判を受けたことは委任の終了事由に該当します。(民法第653条3号)
そのため、在任中の取締役は退任することになります。
ただし、一旦退任した取締役を再度選任することは可能です。そのため、取締役として継続することを望む場合は株主総会を開催し、成年被後見人を取締役として選任した上で、成年後見人が成年被後見人の同意を得た上で、代わりに就任の承諾をすればよいことになります。なお、役員に関する登記事項に変更があった場合には2週間以内に変更の登記を申請する必要がありますのでご注意下さい。
一方、取締役が保佐開始の審判を受けた場合は、委任の終了事由に該当しないため、取締役は退任せずその地位に影響はありません。
参考書籍
「会社法 第4版」 田中亘 著 東京大学出版会
「商業登記全書 第5巻」 編集代表 神﨑満治郎 編著 鈴木龍介 中央経済社
「株式会社・有限会社の役員変更登記の手続」 永渕圭一 著 日本法令